世界脳卒中デー(10/29)について

2006年10月、南アフリカ共和国ケープタウンで開催された脳卒中国際会議で、国際脳卒中学会(山口武典理事長)と世界脳卒中連盟が統合し、世界唯一の組織、世界脳卒中機構(World Stroke Organization, WSO)が結成されました。 これを記念し、毎年10月29日を「世界脳卒中デー(World Stroke Day)」とすることが宣言されました。 世界脳卒中デーについての詳細は、WSOのホームページ(http://www.world-stroke.org/)をご覧ください。

峰松一夫(日本脳卒中協会理事長、国立循環器病研究センター名誉院長)

世界脳卒中機構(World Stroke Organization)は、世界脳卒中デーに際し、脳卒中予防の重要性を全世界に呼びかけています。

世界脳卒中デー宣言(邦訳)
「脳卒中:予防そして治療可能なカタストロフィー」

増え続ける脳卒中

脳卒中は予防可能。しかしながら、世界的に増え続けています。

加齢、健康に良くない食事、喫煙、運動不足は、増え続けている高血圧、高コレステロール血症、肥満、糖尿病、脳卒中、心疾患、血管性認知障害の蔓延を勢いづけています。

世界的には、脳卒中によって年間570万人が死亡し、心臓病に次いで、死因の第2位です。また、重大な身体的な障害の第一の原因です。脳卒中にならない年齢、性、人種、国はありません。

脳卒中5件あたり4件は、低所得~中所得の国で生じています。それらの国では、脳卒中の後遺症に対して、最低限のことしかできません。

もし何も対処しなければ、脳卒中による死亡は毎年増え、2015年には670万人に達します。

既知の予防方法を講じれば、今後10年間に600万件の脳卒中死を回避することができます。

脳卒中を予防によって減らし、治療し、そして後遺症に苦しむ方々のリハビリテーションを行うために我々ができることは沢山あります。

脳卒中予防の力に加わろう

幾つかの危険険因子が、世界中の重大な健康問題の主な原因です。しかしながら、共通の脅威に関する研究は、他の主要慢性疾患とは別に行われています。

共通の危険要因である喫煙、運度不足、不健康な食事は、脳卒中、心疾患、糖尿病、慢性肺疾患の主な原因であり、アルツハイマー病のリスクにもなります。

そこで我々は:

これらの危険因子の増加を防ぐために活動しているすべての疾病別団体と協力して努力しなければなりません。

既知の予防方法を確実に実行しよう

予防は、最も簡単にかつ直ちに実行できるものです。しかしながら、予防はなおざりにされています。

そこで我々には、次のことを行う必要があります:

健康的な行動を支える健康的な環境を後押しすること。

一次および二次予防に効果的な薬剤を用いること。残念ながら、これらの薬剤は、多くの発展途上国においては入手困難で、かつ高価なため使用できません。一方、先進国においてはこれが適切に使用されていません。

効果が実証されていなかったり、経費がかかったり、間違っている方法は、経済的に無駄なことなので、行うべきではありません。

オンライン、遠隔指導、臨床現場での学習機会を設けることによって、保健に従事する専門職に、最低限必要な知識を教育することが必要です。

脳卒中の特異性を認識しよう

脳卒中の色々な病型、すなわち、虚血性(動脈の閉塞)、脳の中への出血(脳内出血)、脳の周りの出血(くも膜下出血)は特有の臨床経過をたどり、特別な治療とリハビリテーションを必要としています。

そこで我々には、次のことを行う必要があります:

それぞれの病型の原因とメカニズムを研究すること。

それぞれの病型の脳卒中に取り組むために、内科医、脳神経外科医、血管内治療専門家(neurointerventionalist)、リハビリテーション専門家の有能なチームを組織すること。

血管性認知障害を見分け、治療し、予防しよう

無症候性脳卒中は症候性脳卒中の5倍の頻度でおこり、思考、気分や人格に影響を与えている可能性あります。

そこで我々には、次のことを行う必要があります:

血管性認知障害はしばしば見られることであり、時にアルツハイマー病の進行を早めることを知っておくこと。

脳卒中、血管性認知障害、アルツハイマー病に共通する危険因子(喫煙、高血圧、高コレステロール、運動不足、肥満、糖尿病)をコントロールすること。

脳卒中ケアとリハビリテーションのための学際的チームを発足させよう

組織的な脳卒中ケアは予後を改善します。しかしながら、そのような脳卒中ケアを受けられることは、ほぼ全世界的に例外的です。

そこで我々には、次のことを行う必要があります:

簡素であっても包括的な脳卒中専門病棟(stroke unit)を設置すること。脳卒中専門病棟は、十分な検査設備が整っていなくても、有効性が以前から証明されています。

学際的チームが、開発、研究し、その成果を臨床に応用できるよう促すこと。

脳卒中の制圧に取り組んでいる全ての人々の要望に対応できるヘルスケアシステムを構築すること。

世界中の一般市民に参加してもらおう

個人、有権者、あるいは支持者として活動している一般市民は、自分たちの将来のリスクとケアに最も強い影響を及ぼすことができます。しかしながら、十分なことがなされていません。

そこで我々には、次のことを行う必要があります:

一般市民、政策立案者、保健専門家の、脳卒中の原因と症状に関する意識を高めること。脳卒中の症状は痛みを伴わず、時に一時的です。しかしながら突然、運動麻痺やしびれが顔、手、足に生じたり、突然しゃべれなくなったり、あるいは、他人の言うことが理解できなくなったり、片側あるいは両側の目が見えなくなったり、突然ふらつきが生じる場合は、激しい胸痛発作やこれまでに経験したことのない突然の頭痛と同様に切実な緊急事態です。既存の脳卒中キャンペーンを統合し,さらに大々的に行うことによって、統一的な一貫したメッセージを世界中に発信すること。

脳卒中は全世界的に広がっており、生命、健康、そして人生の質を脅かすものであるので、脳卒中の適切な予防と治療、リハビリテーションを実現するには、更に多くのことをしなければならないので、専門家と一般市民の認識がまず第一歩であるので、ここに我々は 世界脳卒中デー を宣言します。

日本脳卒中協会と世界脳卒中機構からのメッセージ

脳卒中は予防可能な病気です! 予防のために今すぐできることがあります!

世界脳卒中機構 (World Stroke Organization) は、世界脳卒中デーに際し、「脳卒中を予防する」ために、今すぐできることがあると全世界に呼びかけています。

脳卒中は全世界で年間1,700万人が、我が国では約30万人が発症しています。

日本を含め、先進国では脳卒中を起こされる方、脳卒中でお亡くなりになる方は減少していますが、日本では寝たきりの原因の第1位で、認知症の原因の第2位です。

脳卒中をおこす原因となる病気や嗜好には、高血圧、肥満、糖尿病、喫煙などがありますが、これらの危険因子は、全世界にますます蔓延しています。この現実は、日本においても同様であり、脳卒中予防の遅れ、引いては脳卒中患者の増加を来している可能性があります。

世界脳卒中機構は脳卒中を予防するために、今すぐ取り組むべき行動を提示しています。

世界脳卒中機構理事長であるWerner Hacke教授は、「脳卒中は予防が可能であり、また予防すべきである。脳卒中の9割は、対応可能な10個の危険因子が大きく関係している。この10個の危険因子に対処するだけで、脳卒中発症の危険を減少させ、ひいては脳卒中のみならず糖尿病や心疾患、がんなどを含めた非感染性疾患全体による死亡を防ぐことができます。予防に目を向けることは、私たち自身はもとより、社会的、経済的にも有益な効果をもたらすでしょう。」と述べています。

脳卒中の9割は、10個の危険因子と強く関連しています。

そして脳卒中は予防できます!

  1. 高血圧を管理しましょう
    脳卒中の半数は高血圧と関連しています。
  2. 適度の運動を週5回以上しましょう。
    脳卒中の1/3以上は定期的に運動しない人に起こります。
  3. 健康的でバランスのとれた食事(果物・野菜が豊富で、塩分控えめ)を摂りましょう。
    脳卒中の1/4は不健康な食事と関連しています。
  4. コレステロールを下げましょう
    脳卒中の1/4以上が悪玉コレステロール(LDLコレステロール)に関連しています。
  5. 健康的な体重(BMIまたはウエスト・ヒップ比)を維持しましょう。
    脳卒中の1/5は肥満と関連しています。
  6. 禁煙し、受動喫煙を避けましょう
    脳卒中の1/10以上が喫煙と関連しています。
  7. 節酒しましょう
    脳卒中の6%が飲酒と関連しています。
  8. 心房細動を見つけて治療しましょう
    脳卒中の9%が不整脈や心臓病と関連しています。
  9. 糖尿病を予防しましょう
    糖尿病になると脳卒中になりやすく、糖尿病のリスクを下げると脳卒中のリスクも下がります。
  10. 心理的・社会的ストレスに気を配りましょう
    家庭や職場でのストレス、人生を揺るがす出来事、うつなどの心理的・社会的ストレスが脳卒中と関連しています。
     (出典:O’Donnell MJほか. Lancet 2016; 388: 761-75)

世界脳卒中機構について

世界脳卒中機構 (WSO) は脳卒中との闘いを先導する世界的な組織です。2006年10月に、国際脳卒中学会 (International Stroke Society) と世界脳卒中連盟 (World Stroke Federation) が発展的に合併して設立されました。その使命は予防、治療、長期的ケアを通じて脳卒中の世界的な重荷を軽減することです。世界中の個人および支援団体を含む脳卒中関連団体が加盟する世界的な団体で、世界保健機構 (WHO) と公式な関係のある唯一の脳卒中に関する国際的非営利団体です。

 

脳卒中について知りましょう!

日本脳卒中協会では脳卒中啓発動画を作成しています。是非ご視聴ください。